11日目


腹いっぱいまで食べた名前は満足そうに笑った。


『あ、そうだ。私は仕事がまだあるんだけど、キルアどうする?一人で帰れる?』


心配そうに俺に尋ねた名前に、心の中でまあ俺は方向音痴じゃねえし帰れるけど…と呟く。


そう言おうとした俺は、はたと考えを改める。


いや待てよ…、この間テレビで最近ここら辺で通り魔が発生してると言っていた。


「俺、名前が仕事終わるまで待ってるよ。俺、家までの道、よく覚えてねーしさ」


俺がいたほうがいいよな、そう考えて嘘をついた。


『そう?じゃあ仕事が終わり次第連絡するね。携帯持ってきてるでしょ?』


「うん。じゃあこの辺り適当にぶらついてる」


『気をつけるんだよ!』


おう、と返事をしながらこっちに来て二日目に服とかと一緒に買ってもらった携帯電話を取り出す。


マナーモードを変更してサイレントからバイブに切り替えるとズボンのポケットに突っ込んだ。


俺はとりあえず名前の会社の近くにあった書店に入った。


ただの暇潰しだ。


「…あれ、これって………」


そんな中で見つけた一冊の漫画に手を伸ばす。


HUNTER×HUNTERと書かれた題名の本をパラパラとめくり、中身を見る。


「………俺?」


それには俺のことが書かれていた。


††††††††††


没頭して漫画を読む。


それには、俺の世界のことについて書かれていて、俺がこの世界にきた辺りで物語は終わっていた。


携帯のバイブが震えて、俺は現実に引き戻される。


俺はふらふらとしながら書店を出た。


嫌な事とは度重なるもので、出てすぐの所に、この世界に来るときに通ってきた扉が現れた。


「…そろそろ元の世界に帰れ、ってか?クソッ………!!もう少し待ってくれよ……。俺の未練が無くなるまでさ………」


泣きながらこんがらがった頭もそのままに扉に言葉をぶつける。


漫画を見たことで、俺と名前は別世界の住人なんだと思い知らされた。


いつかは、帰らなきゃなんねーんだ。


扉は俺の思いが届いたのか、気付くと俺の前から消えていた。


「…あと一週間。あと一週間俺にくれ」


そう呟き、俺は名前の会社に向かう。


きっと、あの扉はまた俺の前に現れる。


確証はないけど、きっとそうなる。


何故だかそう思った。


††††††††††


名前の前に情けねー面下げて行くわけにはいかねぇから、何とかいつも通りを装って、名前の前まで行く。


俯いて待っていた名前は、俺に気付くと満面の笑みを浮かべる。


俺の名前を嬉しそうに言った名前に、胸のもやもやが消えた。


まだ時間はあるんだ。


残された時間を悲観するんじゃなくて、残された時間を名前とどう過ごすかが大事なんだろ?


俺はそう自分に言い聞かせて、名前の手を握った。


「帰ろうぜ、名前」


『うん!あ、ねえキルア、帰りにコンビニ寄って帰ろうよ』


「おう!」


ぎゅっ、と名前に握り返された右手が熱い。


うわー…、名前の手、柔らけー……。


すべすべで柔らかい名前の手に、俺は心の中で感動した。


あ゛ー…ぜってぇ今の俺顔赤いって。


バレてねぇかな?


ちらりと名前の顔を見ると、名前の顔も少し赤い。


あれ、もしかして脈あり……?


じっ、と名前の顔を見ていると、不意に名前と視線がかち合った。


『どうしたの?』


「い、いや!何でもねぇよ!!」


『そう?』


俺は慌てて前を向くのだった。


うわっ、俺だせー……。


††††††††††


キルアと手を繋いでコンビニに向かう。


何だかキルアの耳が赤く見えるのは気のせいかな?


ていうか、キルアさっき会社に来た時何か様子が変だったけど何かあったのかな…?


まあ、キルアが話さないなら気のせいでいっか。


不意に視線を感じて視線をそちらに向けるて、キルアと目があった。


『どうしたの?』


気になって尋ねるも、キルアは慌てて前を向いてから何でもないと言い張る。


その顔はさっき気のせいとして片付けた横顔よりも真っ赤だ。


あ、もしかして脈ありかな?


気になってキルアに話しかけまくると、キルアは普通に答えてくれる。


というよりは、普通を装って答えてくれているという感じだ。


うん、これは多分キルアは私に好意を持ってくれていると見て間違いなさそうだ。


っていうか、分かりやすい。


クスリ…と笑うと、キルアがきょとんとした顔で私の顔を見つめる。


『何でもないよ、キルア。あ、コンビニ見えたね』


私はごまかすと、キルアの腕を引きコンビニへと早足で歩いた。


††††††††††


私は限定スイーツと限定菓子をカゴに入れた。


キルアは何か欲しい物ない?と尋ねると、キラキラした顔でキルアはチョコロボ君を指さした。


キルアはチョコロボ君を5個ほどカゴに入れると、満足そうな顔をした。


チョコロボ君、好きなのかな?


帰りの電車の中で尋ねると、キルアは子供らしい笑みを浮かべる。


「すっげー好き!これ、俺の世界にもあったんだよ!!」


そう興奮気味に話すキルアからチョコロボ君を一つもらう。


あ、確かに美味しい。


その後、キルアのコーラを一口飲んだ。


私もコーラにすれば良かったな。


やっぱりお菓子とくればコーラ、スイーツとくれば紅茶だよね。


って、勝手に私は思ってる。


「名前…、い、今の…………か、か、間接キス……」


赤い顔でぽつりと呟くように言ったキルアににやりと笑って、私はキルアの唇に口づけた。


昨日直にやったというのに、意外とうぶだな。


「名前っ、ん…あっ……ふぅ…」


逃げ回る舌に吸い付き、丁寧に口内を掻き回す。


『ふっ……んあ……』


くちゅくちゅとお互いの唾液の混ざる音が響くが、各停に乗ったからか誰もいない車両では私達の耳を犯すだけだ。


息が苦しくなり唇を離す。


私とキルアの間に銀の糸が繋がっている。


それを舌でぷつりと切り、顔が赤く息も荒くしているキルアににこりと微笑んだ。


「な…んで」


『キルアが好きだから』


そう答えると、キルアは驚いた顔をした。


その顔を見てまた、私は一人静かに笑うのだった。



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